世界一メンヘラサイコパスな女の日記
好きな男の荒くなった息と、好きな男の正式な恋人のか細い喘ぎ声と、リズムよく軋むベットの下で、仰向けに寝っ転がって明日の朝ごはんについて考えている
炊き立ての白米に納豆と生卵とねぎとしらすをかけて食べようか
表参道にある白い店と生クリームのもちもちしたパンケーキを食べに行こうか
昨晩から漬けてあるフレンチトーストにしようかカフェでホットコーヒーとバタートーストのセットにしようかツナ、ポテトサラダ、タマゴ、ハムチーズのサンドイッチを作ろうか
視線の先はベットの裏側で、木の隙間からマットレスが人の重みで食い込んでいる
私の頭の中と、彼らの快感を隔てる一枚の仕切りを見つめながら、得体のしれない染みを見つけてしまい、目をそらす。
私は彼のことが好きで
彼は私に用がなくても「声が聞きたくなって」という理由で電話を掛けたり
熱が出たから傍にいてほしいと言ったり
私の目を見て「可愛い」と言ってくれたり頭を撫でてくれたり
キスをして何度も交わった
私は彼の瞬きするときにまつ毛が描く弧や
くしゃっと笑うときの目じりの可愛らしい皺や
本当はくせっけなのに気にしてアイロンで伸ばしたサラサラの髪や
お風呂上りに見ることができるくねくねした柔らかい髪や
穏やかで優しい声や
長くて奇麗な指や
コンタクトが切れて眼鏡で本を読んでる姿や
彼より早く起きて眺める無害で平和な寝顔が
とてつもなく好きだった
私と、今ベットであえいでいる女は、似ているようで全然似ていない
私は料理がうまい。彼の食べたいと思ったものがすぐ作れるしどれもおいしい
小さいころから母はあまり料理しなかったし父は単身赴任だったので私が何回も指を切りながら食べる物は用意をした
オーソドックスなものから冷蔵庫のありあわせ的なものまで基本的に何でも作れる
彼が食欲がないときでも、私が作れば彼は目を細めて嬉しそうにおいしいと言って食べてくれた
今ベットであえいでる女は料理が全くできない
生卵もうまく割れないしリンゴも剥けない
おなかがすいたら出前を取るかコンビニで買うか、彼が不器用にチャーハンを作る。それを二人ではふはふしながら食べる
彼はこの女のために、チャーハンを作る
私は髪が短い。顔が小さく、髪質ががしっかりしているからショートのほうが似合う。
中学性のころからずっとショートを貫いてきた。
強く太く艶のあるストレートショート。出会う人のほとんどは必ず一度は「ショートがよくにあうね」という。私の髪は唯一のお気に入りだった
今ベットであえいでいる女も髪が短い。私と同じくらいか、私より少し短いか。
でも女の髪は硬くゴワゴワしていて量も多く、指を通すとどこかでつっかえる髪だ
艶も潤いもない、全く美しくない髪をしていた
きっと、ショートが似合うからしているわけではなくて、髪のケアがめんどくさくてこの長さに切り落とした、という感じだ
その髪を、彼は苦しそうな顔で掴み、キスをし、大事に犯している
あー、吐きそうだ。
女の体液と好きな男の精液が交じり合う
最悪だ。
心から血が流れてゆっくり肺に溜まっていく、
苦しいけど私の血だから仕方ないか、
私がせっかくつけた傷だもの、と思う
せっかく彼につけてもらった傷だもの、と思う